(既にいたけど(笑))ホタルを呼ぼうプロジェクトとホタルの科学

生き物

本記事は結構長いです(笑)

KRBC Fishing and Campingでは、当初から考えていたプロジェクトがいくつかあります。その中の一つが「ホタルを呼ぼうプロジェクト」です。

KRBCのある群馬県は高崎市倉渕町は自然豊かで、ホタルが自然発生している個所がチラホラあります。保護していて多く観られるところとしては「湯ヶ沢ホタルの里親水公園」が有名です。

そこでKRBCでもホタルの鑑賞、しかもキャンプやお酒を飲みながらの鑑賞ができたら良いなというところからこのプロジェクトが始動しました。

プロジェクト当初の計画

最初に立地や環境を見た時、これはホタルが飛ぶかもしれない!と思いました。

そこでオーナーや以前管理していた方に聞いたところ、「ほとんど夜にはいなかったので分からないけれど、一匹二匹フワフワ飛んでいたことがあるような気もする」という、なんとも期待できるようなできないような回答でした。

そこで周辺の方に聞いてみたのですが、やはり「前はいたけどね」などの期待薄な回答…。

ただ、やや下流に自宅がある方によると、KRBCから下流800mくらいのところに「以前からホタルが湧くところがある」という情報を得ることができました。

そこで当初は「2年間掛けてホタルが自然繁殖できる環境を整え、2025年シーズンはもしかしたら観れるかも、2026シーズンにある程度観賞できる数を期待する」というスケージュールを立てました。

なぜ2年かというのも理由があります。

先ずは以下の場内図を見て頂きましょう。

最初に行ったことは渓流1と渓流2にゲンジボタルのエサとなる「カワニナ」がどのくらいいるのかという調査です。ところが予想外に「全然いない(^^;」という結果でした。

どうして予想外だったかと言いますと池3(Pond 3)にはカワニナがかなりの数生息しているためです。

そこで、特に渓流2にカワニナが十分な数が生息している状況を確立するのに、2年くらい必要かなというのが一つの理由。

そして周囲にホタル、特にゲンジボタルがいない場合、800m下流にあるホタルの発生地から登ってきてもらわないといけません。KRBCに辿り着くまでに1~2年掛かるかなというのがもう一つの理由です。

その1~2年というのも根拠があります。以下の書籍に、ゲンジボタルのメスは産卵を控えると飛んで川沿いに遡上する傾向があり、その距離はおおよそ400 m。長いものでは2.3 km程度登ったという記録があるとの記述を見つけたためです。
出典:遊磨正秀著「ホタルの水、人の水」

そのため、800 m下流の繁殖地からKRBCに辿り着く可能性があるのは1~2年後という計算です。

実は昆虫において産卵のための河川の遡上はいろいろな種類で知られているそうで、もちろん大水などで幼虫などが流される可能性があることと、進化上関連があるのでしょう。

カワニナの放流

そこで最初に行った環境整備は「渓流2」に池3(Pond 3)から採集したカワニナを放流することです。

渓流1への放流も考えたのですが、降雨時の増水量などを鑑みますと、ゲンジボタルの幼虫が生息するにはちょっと水量が多く、流速も早いかなと考えたためです。

この放流は、カワニナの渓流2での長期生存確認などのためにも、3月初旬から開始していました。Pond 3からの採集は手が痛くなるほどの水温の時からです(^^;

採集したカワニナ

そして今日現在(2024年6月14日)までに、渓流2には8回、渓流1に1回、池1(Pond 1)に3回、池2(Pond 2)に1回それぞれ20-100匹/回を放流しました。Pond 1とPond2への放流は、カワニナの消滅リスク分散と、ある程度各池でのゲンジボタル発生を促し、こちらも消滅リスク分散を狙ったものとなります。

放流されたカワニナ

また、むろんカワニナもPond 3に生息しているものだけを用い、他場所からの輸入は行っていません。これは周辺環境のバランスもありますが、他から移入することで、地域に無かったカワニナの病気などが生じ、カワニナが減少するなどのリスクを抑えるためです。

モノアラガイの移植

カワニナについては基本的にゲンジボタルの幼虫のエサとなりますが、ヘイケボタルの幼虫のエサにもなります。

今回のプロジェクトではゲンジボタルだけではなく、ヘイケボタルも同様に舞うようになって欲しいので、ヘイケボタルのエサとなる「モノアラガイ」の移植を並行して行っています。

カワニナだけではエサの競合が生じてしまう恐れがある他、Pond 3と周辺渓流ではゲンジボタル、Pond 1ではヘイケボタルが優先して発生して欲しいという計画です。

モノアラガイはFlowing Pond 1に少数ながら生息していることは確認できていましたので、こちらを採集し、Pond 1に移植させています。

ヘイケボタルの周辺での生息状況については、住民の方々から「ある程度田んぼで飛んでいるのを見たことあるよ」という証言を得ていました。

Flowing Pond1から採集したモノアラガイ(交尾中)。

計画の変更!もう既にいた!

こうして続けていた地道な準備ですが、急な計画変更を行う必要が生じました。まずそれは以下の記事でも記載していますが、既にゲンジボタルがある程度いる可能性が出てきたことです。

速報!あのプロジェクトが前倒しで!?
https://www.krbc-fishing-camping.fun/firefly-project-start/

そしてさらに確実になったのは、実際にゲンジボタルが発生し、しかもそれなりの数(最大では70 匹/日程度)が飛翔することが分かったためです。

オスのゲンジボタル。

さらにさらに、ゲンジボタルの出現ピークが過ぎたころから、チラホラとPond 3周辺でヘイケボタルが飛び始めました。

そしてその数は次第に増加し、Pond 3周辺だけでなく、KRBC場内全域で飛翔が確認され、数としては100 匹/日以上の発生が観られています。このような状況から、ヘイケボタルはPond 3だけでなく、Flowing Pond(モノアラガイがいるFP1、いると思われるFP3,4,5)の各池でも発生していたものと思われます。

このような状況を鑑みまして、来年以降さらに多くの飛翔(目標はゲンジ・ヘイケ共に今年の2倍)を促すため、以下のように行う予定です。

ゲンジボタル・ヘイケボタル増幅計画

ゲンジボタルについては当初の計画を基本的に踏襲していきます。変更する点はPond 1により多くのカワニナを放流することにした点です。

今年(2024年)は不思議とPond 3周辺にしかゲンジボタルが飛ばず、場内全体ではチラホラ2~3匹飛んでいるような状況でした。これはこれでファンタスティックなのですが、Pond 1でも来シーズンにも少数でも発生するようにするためです。

さらに言えば、カワニナの数がゲンジボタル発生数をコントロールしている可能性が高いので、カワニナ数を増やすことで、絶滅・壊滅のリスクをヘッジするためでもあります。

そして渓流2にも引き続き積極的にカワニナの放流を行います。

渓流2にカワニナがいないのは、ゲンジボタルの幼虫の捕食圧が高いためで、結局毎年渓流沿いに産卵されてふ化した幼虫は飢餓のために成長できない可能性も、今になってみれば考えられます。

ゲンジもヘイケも、発生する環境は既に整っているので、数を増やすためにはエサとなるそれぞれの巻貝の生息数を高めることが重要だと考えられます。

また、2025年はゲンジボタルのサナギ保護のため、Pond 3の一部に立ち入り・踏み込み制限を設けました。

ホタルの科学Ⅰ ゲンジボタルの生息条件

ホタルを呼ぼうプロジェクトにしても、現在自然発生しているホタルを保護し、継続して毎年発生させるにしても、先ずはゲンジボタルの生息条件を満たさなければなりません。

先ず皆さんがおそらく誤解されている点があります。それは「ホタル、特にゲンジボタルは綺麗な水にしか生息できない」ということです。

もちろん汚れた川では生息できませんが、ある程度の許容範囲があるのです。

先ずは昭和46年12月28日環境庁告示第59号 生活環境の保全に関する環境基準(河川)の表を見てみましょう。

出展:ゲンジボタルの生息条件について 植村et al 水工学論文集 47巻 2003年2月

先ず何よりも重要なのは、幼虫のエサとなるカワニナの存在です。カワニナは環境指標生物にもなっており、上記基準では類型Cに相当する水質であれば生息が可能と言われています。

これを最低限として、pH、BOD、SS、DO、大腸菌群数とホタルの生息地・非生息地で多変量解析したところ、最も関連していた項目は大腸菌群数であるとの結果が得られており、その値は5000MPN /100 ml以下であったとされています。

つまりゲンジボタルは水質的には類型B以上(アユ、サケ、オイカワ、ウグイが住むような河川)であれば、生息できることが示されました。
出展:ゲンジボタルの生息条件について 植村et al 水工学論文集 47巻 2003年2月

これだけであればいろいろなところでゲンジボタルが見られると言えそうですが、さらに以下が生息するために重要な関連因子であるとの解析結果が出ています。重要な順に並べてみますと…
水理条件:水深30 cm以下、底質は石・砂利、流速35 cm/s以上
環境条件:石または砂岸であること、生息周囲が草木で覆われていること、岸角度
出展:ゲンジボタルの生息条件について 植村et al 水工学論文集 47巻 2003年2月

これらの結果からゲンジボタルが数を減らしている原因は、これらを総合した環境が減っているためであり、やはりこれらを満たす場所が、近年では深山や、逆にゲンジボタルを復活させるとの目的を持って整備された場所に限られていると言えます。

ではKRBC Fishing and Campingの環境はどうでしょうか?

現在ゲンジボタルの発生が確認されている(幼虫の存在が確認されている)場所はPond 3のみとなっています。Pond 3に今はいませんが、以前はヤマメ・イワナが問題なく生存しており、環境基準としては類型A以上であることが考えられます。ただ、底質は砂泥で、流速も池のためそれほど速い訳ではありません。

また、Pond 3の水を引き込んでいる渓流2は2百m程度上流が湧水の流出点であり、サワガニも生息していることから、ここは類型AAであると言えます。

さらに環境は以下の写真の通りゲンジボタルの発生に適した条件が揃っており、カワニナの数さえ通年確保できれば、ゲンジボタルを発生させることは十分に可能であると言えるでしょう。

渓流2の渓相。ゲンジボタル発生の条件をほぼ完ぺきに揃えています。

ホタルの科学Ⅱ 光害

実はゲンジボタルもヘイケボタルも、もう一つ重要な生息要因があります。ホタルが減少した原因として、水質汚染・河川工事・農薬などの他に、街灯や家の明かり・車のライトなどによる光害が挙げられています。

皆様ご存じの通り、ホタルは光ります。その光でオス・メスのコミュニケーションを行っており、結構弱い光でもそのコミュニケーションが阻害されてしまうのです。

ではどの程度の明るさでホタルの交尾行動が阻害されてしまうのでしょうか?以下は5色のLEDを用い、ゲンジボタル・ヘイケボタルそれぞれの産卵行動への影響を、受精卵を生んだ個体数やふ化卵を生んだ個体数で評価したものです。

出展:ゲンジボタル・ヘイケボタルの産卵に対するLED照明の影響 宮下et al 土木学会論文集 Vol.67 No.1 21-29 2011
出展:ゲンジボタル・ヘイケボタルの産卵に対するLED照明の影響 宮下et al 土木学会論文集 Vol.67 No.1 21-29 2011

このように、全色にわたりわずか0.1 lx(ルクス)で影響が出ていることがわかり、特にゲンジボタルにおいて黄色光では相当の影響があることがわかります。

最も影響が少ないのは赤色光と言え、KRBCでもイベントの際は赤色光の使用をお願いしていますが、影響が比較的少ないというだけで、無いという訳ではないことをご理解いただければと思います。

光度のイメージがわかりにくいかと思いますので、例を挙げますと、満月の地表での明るさは0.25 lx前後、三日月では0.01 lx前後と言われています。新月の星明りで0.001 lxです。

そう考えますと、ホタルの交尾は満月でも阻害される可能性が高く、例えば月齢がホタルには悪かった昨年(2024年)は、産卵数が少なく、今年の発生数に影響するかもしれません。一方で今年(2025年)は6月25日が新月になっており、発生ピークに重なる可能性が高いので、ホタルには(観る方も)良いかもしれません。

ちなみにKRBC Fishing and Campingでは入り口付近に白色LED街灯がありますが、うまい具合に銀杏の木が光を遮ってくれており、発生場所は全くと言って良いほど光害の影響がない状況となっています。

コケに産卵されたゲンジボタルの卵。

ホタルの科学Ⅲ ホタルの移入問題について

ホタルはそれなりに日本全国各地で観ることができ、イベントなども開催されていますが、完全に自然発生しているホタルが観られる会場は少なく、カワニナやホタルの幼虫を養殖して放流している場合が多くみられます。

ここKRBC Fishing and Campingでは場内でのカワニナやモノアラガイの移動は行っていますが、ホタル幼虫も含めて養殖は行っておらず、完全自然繁殖のゲンジボタル・ヘイケボタルを観ることができます。

完全自然繁殖のため、発生数が年によって大きく左右される可能性もありますが、「この環境ではこのホタルの発生数が自然のなかでは適正」ということを皆様にも知って頂きたく、それは環境のバランスを少しでも崩すことで、容易に種が絶滅する可能性があることを感じて欲しいというのもあります。

一方で1960年70年代から今日まで、多くの場所でホタルの復活計画やイベントが行われ、それに伴い他地域からのホタルの移入が行われて来ました。

特に国内外来種問題に対する意識が低かった1980年代くらいまでは、各地で在来遺伝子保全などを考えずに、遠方から移入することも頻繁に行われていました。

有名な話ですが、実はゲンジボタルはフォッサマグナを境に大きく西日本型と東日本型に分かれ、形態や発光間隔(西は2秒間隔・東は4秒間隔)、産卵習性(西は集団産卵。東は単独産卵)などが異なっています。このため現在では既に東西のゲンジボタル間での自然界での交配が行われないくらいの遺伝的・交配行動的距離が生じているのです。

さらにミトコンドリア16sリボソームRNA遺伝子やNADH脱水素酵素サブユニット5遺伝子を解析すると、南九州型・北九州型・西日本型・東日本型に分けられることも知られています。
ミトコンドリアND5遺伝子の塩基配列から推定されたゲンジボタルの種内変異と分子系統
吉川 et al Jpn.J.Ent 4(4) : 117-127 December 25 2001

一つ大きなゲンジボタルの国内外来種問題を挙げてみましょう。2000年代以降、移入されて定着してしまった各地(特に西日本型が移入された東日本)において、その駆除や地域在来種への置き換えが進んでいるのですが、ゲンジボタル鑑賞地として有名な長野県辰野町松尾峡では全く対策が取られていないのです。

松尾峡では過去に琵琶湖周辺から西日本型のゲンジボタルが大量に移入され、その子孫がすでに定着していることが生態的にも遺伝子的にも明らかになっています。そんな中、現在では地域のホタルとして親しまれ、ほたる祭りも77回(2025年)を数えるなど、観光資源としても役立っています。

当初そもそもホタル自体には何の責任もないので、自分は目くじら立てる気はありませんでした。

しかし、先日の信濃毎日新聞デジタルの記事「ホタル保護100年の物語 光の命脈をつなぐバトン(2025年6月1日)」を読んで、あまりの罪悪感の無さに唖然としました。記事は移入のことには一切触れず、地域の唯一残った天竜川沿いのホタルを守り続け、松尾峡の現在に至るという内容だったのです。

現在進行形で、下流域の在来ゲンジボタルがこの移入されたホタルに置き換わりつつあるとも言われており、嘘までついて過去の移入をなかったことにしようとする辰野町やその関係者の責任は大きいと言わざるを得ません。

参考文献:ゲンジボタルの移入問題 井口豊 全国ホタル研究会誌 (42):35-38 2009

ちなみに生物多様性に関する関連条約や法規は以下の通りです。
・1993年日本も締結して批准している国際条約:生物多様性条約
特に第2条では種内での多様性の保全についても触れられています。
・上記に基づいて2009年制定された国内法:生物多様性基本法
特に第27 条で地方公共団体が生物多様性を守るための施策を実施することが求められています。

蛹化(蛹になる)のために上陸したゲンジボタルの幼虫。歩きながら盛んに光ります。何匹も上陸している光景も結構綺麗です。

ホタルの科学Ⅳ 形態とホタルの一年

ここでゲンジボタルを例にその形態や一生について極簡単に書いてみましょう。

先ずは幼虫です。

KRBC Fishing and Camping Pond3にいた幼虫です。

幼虫は水中で生活しているため、エラが体側にあります。この形がゲンジボタルとヘイケボタルで異なっており、ゲンジボタルはZ字状に縮れているのが特徴です。

また、前胸の模様もゲンジボタルとヘイケボタルは異なります。ゲンジボタルは写真のように丸紋ですが、ヘイケボタルは十字状または棒状になっていて、終齢幼虫では結構はっきりと見分けることができます。Pond3にゲンジボタルがいると確認できたのも、この幼虫の前胸模様によるところが大きかったですね。

次に成虫です。

これもKRBCで発生したオス成虫です。

ゲンジボタルの特徴として、前胸背板の模様があります。赤~オレンジ色の部分が目立ちますが、ヘイケボタルでは縦に黒くて太い一筋の紋が入り、赤~オレンジの面積が少なめです。

またゲンジボタルの前胸背板の模様は地域変異があり、錨紋型・十字紋型・前方斑紋型・薄紋型・痕跡型・無紋型などが知られています。KRBCのゲンジは綺麗な錨紋型と言えますね。

また、もう一つの特徴は頭部に占める目の割合で、非常に大きな目を持ちます。これは夜行性であり、且つ光をコミュニケーションに用いていることからも合目的的です。実際に相当遠くから相手を見つけてすごい勢いで接近し、空中でじゃれあっている(喧嘩している?)様子を観ることができます。

以下に昼行性のオオオバボタルとオバボタルの写真を載せますので、比べてみてください。このオオオバボタルやオバボタルもKRBCには結構います。

オオオバボタル?と思われます。結構でかいです。
オバボタル?だと思われます。ちょっと前胸背版の黒い紋が太い気もしますが。

これを見てわかる通り、昼行性のホタルは色合いは似ていますが、コミュニケーションをホルモンで行っていると考えられており、触覚が発達し、目もゲンジやヘイケに比べると小さいことがわかります。

次に生活環をみてみましょう。

ここKRBCではゲンジボタルはおそらく6月後半から7月頭、ヘイケボタルは7月初旬から8月頭にかけて産卵が行われていると考えられます。

産卵個所はゲンジボタルがPond3や渓流2の水際に生えるコケに、ヘイケボタルはFlowing Pondの各池のやはり水際に生えるコケに産卵しているようです。産卵は孵化した幼虫がすぐに水中に移れるよう、水面上垂直に近かったりオーバーハングしているようなところに産卵していると考えられます。一匹のメスが産卵する数は500~1000個程度と言われています。

卵は水に浸かっても孵化するそうですが、乾燥には弱いようです。

コケに産卵されたゲンジボタルの卵。

産卵された卵は25日前後で孵化します。孵化するまで、卵は弱いながらも昼夜を問わずに発光します。小学生の時に飼育したヘイケボタルの卵も、ぼわっと弱く発光していました。

孵化した幼虫は直ちに水中に入ります。

幼虫はゲンジボタルもヘイケボタルも夜行性であると言われていますが、意外と昼間も行動しているようです。実際にPond3で最初に幼虫を確認したのも昼間にカワニナを食べている時でした。

幼虫のエサはゲンジボタルは結構な偏食でカワニナほぼ一択と言われています。ミミズなどを捕食していることが報告されたり、飼育下で他のエサを食べて成長することも示されていますが、よっぽどのカワニナの枯渇の場合に限られると考えられます。一方でヘイケボタルはモノアラガイを中心に、カワニナや他の貝類など、比較的広範囲のエサを食べるようです。

ゲンジボタルもヘイケボタルも冬季は活動が極めて鈍くなり、エサを摂らなくなります。特に田んぼなどで生活するヘイケボタルは、落水した田んぼの水が無い状態でも土中で生存し、春に水が再度入ってくると動き出すことも観察されているようです。これは完全に人の稲耕作に適応しているとも言えるでしょう。

また、ゲンジボタルは孵化後の初齢幼虫からおおよそ4回の脱皮を経て終齢幼虫となります。ただし、この成長には同じ親から生まれた子でも大きなばらつきがあることが知られています。

ゲンジボタルでは3月初旬には再度カワニナを捕食し始めていることがPond3でも観察されています。このころの水温はまだ10℃に満たないのですが、意外と冷たさには強いようです。そしてゲンジボタルでは3月後半から4月に入るとエサを食べなくなり、蛹化の準備に入ります。

蛹化のためのゲンジボタルの幼虫の上陸はKRBCでは4月中旬から5月初旬に行われました。気温が比較的高く10℃以上、雨が降った後か降雨中に上陸しており、晴天時には観られませんでした。2025年は4月20日に上陸数匹の上陸幼虫を初確認し、ピークは5月2日でぱっと見で30~40個体、最後は5月6日で極少数でした。

ヘイケボタルの幼虫の上陸はゲンジボタルに遅れて5月中旬以降に行われると考えられますが、残念ながら探しても見つけることができませんでした。どこに上がっているのでしょう?(^^;

上陸した幼虫はしばらく水面から離れるように歩行し、草木が生えて乾燥しにくく、やわらかい土壌に潜り蛹になります。蛹になる前の前蛹期間はゲンジボタルでは結構長く、40日前後あると考えられています。蛹になると羽化まではおよそ10日です。

一般的にゲンジボタルもヘイケボタルも生まれた次の年には成虫になると思われていますが、実はゲンジボタルは幼虫の状態で2年3年留年するものが数割います。実際にKRBCのPond3で初めて幼虫を見つけたのは5月後半で、通常では既に土に潜り、蛹になる準備を始めているころでした。これは近親交配などをある程度避けるためや、比較的狭い範囲に生息するホタルが環境の変化で全滅を免れるための合目的的行動であるとも言えるでしょう。一方ヘイケボタルはほぼすべてが生まれた翌年に成虫になるようです。

上陸から羽化までの期間は外気温・土壌温度に左右されます。細かい積算温度の計算もあるのですが、東京のホタルでは積算土壌温度680℃前後、有効積算温度で408.4℃(有効積算温度は日平均気温から発育0点温度を引いた値の積算)と言われています。共におおよそ45~53日で羽化する計算になるようです。
ゲンジボタルの発生に及ぼす温暖化の影響について ゲンジボタルの発生と積算温度について
ホタルレポート 第9号 第10号

これを元にKRBCではどうなのか確認したいのですが、毎日平均気温を出すのはほぼ不可能なので、近隣(中里見や中之条)の気象データを元に計算してみました。しかし計算結果は特に有効積算温度で60日を超えてしまいました。おそらく地域によって発育0点温度(発育が0になる温度)が異なり、KRBCのホタルは寒さに強い傾向がある可能性があります。

実際に2025年の実績を見ますと、幼虫上陸初見日は4月20日で、成虫初見日は6月8日でしたので、49日となりました。これを元に幼虫の上陸日から成虫発現数予想をしてイベント開催期間を決定しています。

羽化は先ずオスが最初に行われ、一週間程度遅れてメスの羽化が始まるとされています。昨年の観察でもそのような傾向が観られました。

成虫の寿命は10~15日であるとされ、メスがやや長命ですが、自然界ではクモなどの捕食圧や強雨などもありますので、それよりは短くなるでしょう。ちなみにKRBCでは自然の状況を極力変えないよう、クモの巣の除去などは行っていません。このため「ヘイケボタルが固まって綺麗に光ってるなぁ!」と思って近寄ると、たくさんのホタルがクモの巣に掛かっていたりします(^^;

ホタルの科学Ⅴ ホタルの光とヒトの感性について

さて、少し視点を変えて、なぜヒトはホタルの光に癒されるのかを科学的に書いてみましょう。

現在ストレスも多様化し、またホスピス治療などにおいても「癒し」の必要性が増々高まっています。その癒しをを求めてホタル観賞を行うという皆様もいらっしゃるでしょう。

一つ、ホタルの発光パターンに見られるゆらぎ特性やフラクタル次元と、そのホタルの光が人の精神に及ぼす影響を感性工学的に官能評価した以下の論文があります。
ホタルの発光と人の感性について 発光現象のゆらぎ特性
阿部宣男 et al 感性工学論文集Vol.3 No.1 35-44 (2003)

この論文ではホタルの光(ゲンジでもヘイケでも)の輝度変化や発光間隔などの低周波域では1/fのゆらぎがあり、また隣接明滅輝度差や最大発光輝度差の変動などの高周波域では1/f2のゆらぎがあると記載されています。

特に低周波域1/fは、網膜に残像する時間が長く、意識により心地よい働きかけをする可能性が高いとのことでした。

ちなみに1/f0は複雑で偶然性が強く緊張感のある現象、1/fは単純で期待性が強すぎ退屈な現象とされ、その中間、特に1/f~1/f2が最も心地よく癒し効果がある現象であると言われています。

これらのことから、ホタルの光には癒しの効果があると言って良さそうです。

さらにこれらのデータを元に、ホタルの光やその生態系としての水圏環境を「癒し」の一つとして取り上げ、それが人々の心にどのような効果をもたらすか考察した論文もあります。
ホタルの光と人の感性について 感性情報計測と福祉応用
阿部宣男 et al 感性工学研究論文集 Vol.3 No.2 41-50 (2003)

この論文では年齢階層が様々な450人を対象に、ホタルを観察して感じたことを評価しています。その結果は以下の通りでした。(ゲンジボタルでの結果。ヘイケボタルでもほぼ同様な結果なので省きます。)
92 % : ホタルの光は美しくて幻想的だ。
62 % : ホタルの光のみに癒された。
86 % : せせらぎの音に癒された。
69 % : 取り巻く温度に癒された。
65 % : 取り巻く湿度に癒された。
60 % : 取り巻く香りに癒された。
90 %以上 : ホタルの光を含めた空間全体に癒された。

このように、ホタルの光やホタルが発生する環境には、「癒す」効果が非常に高いことがわかります。

もちろんKRBC Fishing and Campingではホタルの光が鑑賞できる他、背後を流れる渓流の音、周囲の森林から流れてくる香り、ヒューンヒューンと物悲しく鳴くトラツグミの声など、1/f~1/f2のゆらぎの中に、どっぷりと浸かることができます。

さらに言えばヒトの3大欲求の一つである食欲を満たしながら観れるのもポイントの一つです(笑)。

ここKRBCではこのようなホタルの発生と環境を、今後心療内科的治療やホスピスのイベントとしても展開していければと考えています。

Pond 3でカワニナを食べる3匹のゲンジボタルの幼虫。

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